今回は、当オフィスのカウンセリングの方針について書き記しておきたいと思います。
こころの悩みや問題を抱えた人に対して、専門的な訓練を受けた者が広い意味でのこころに関する知識と方法を用いて、その悩みや問題の背景や本質を理解し、解決に至る道筋をその人とともに探っていこうとする(井上、2023)。それが臨床心理学であり、カウンセリング・心理療法です。
ご相談いただく悩みや問題の背景や本質を理解するためには、しっかりとお話を聴かせていただくことが何よりも大切です。とはいえ、お話ししにくいことや、言葉にならないこともたくさんあろうかと思います。それぞれの方のペースに合わせて、状況とお気持ちをじっくり理解していくことを大事にしています。相談しようと思ってやって来られるということ、来談されるということ自体が、とても大きな一歩だと考えています。
そのうえで、まずは改善したい悩みや問題(主訴と呼びます)の解決を目指すことが第一の目標になります。ご希望に添って、適切な対処方法を一緒に模索していきます。当オフィスではイメージを用いた深層心理学的な心理療法を専門にしていますが、それだけではなく、リラクゼーション法、SST(ソーシャルスキルトレーニング)、行動療法の技法やトラウマケアなど、それぞれの方の状況とお気持ちを理解したうえで、それに合うような、役立つ可能性がある方法を(医療や福祉等の利用可能性も含め)、できるかぎり広い視野に立って柔軟に検討していきます。それに伴い、専門家としての意見も可能な限りお伝えします。
とはいえ、こころに関係する悩みごとは、当面の問題(主訴)を解決しようとするだけでは対応が充分ではないこともあります。対症療法で何とかなるときもあるけれど、それではうまくいかないこともあります。気分や対人関係の改善を目的として相談に来られた方が、幼少期からのご自身のことやご家族のことなどを振り返って整理していくことで、深い気づきを得られることも珍しくありません。当面の問題の改善を最初の入口にして、その後、本質的な解決や変化へとつながる道のりを歩んでいかれるような場合もしばしばあります。カウンセリング・心理療法のもつ大きな意義のひとつです。
しかしここで大事なのが、当面の問題を解決しようとする手軽な対処方法が「浅い」ものとは限りませんし、深層心理学的な方法が必ずしも「深い」ものとも限らない、ということです。大変な状況にあるとき、最初の一歩が見えること、足掛かりをつかむことが、どれほど希望になるかわかりません。一歩一歩の地道な積み重ねに同行することは、カウンセラーの大切な役割です。
また、精神科医でもあり、深層心理学的な心理療法を専門とする成田善宏先生は、次のような重要な指摘をされています。すなわち、来談された方の話を聴いて「深い」理解をしたカウンセラーが、あえて「浅い」心理療法をしようという判断をした場合、その「浅い」精神療法は実はきわめて「深い」心理療法といえるのではないだろうか、というのです。どんな方法をとっているかというよりも、何をまなざして取り組んでいるかということのほうが大事なのだといえるかもしれません。
長くなりましたが、まずは肩の荷を下ろすつもりで、気を楽にして相談していただくことができれば、それが何よりです。おひとりで抱えてきた気持ちを訥々とお話しいただくだけでも、とても大変なことであり、大切な作業だと思っています。
とはいえ、イメージのもつ意義、とりわけ夢を聴かせていただくことはこころの深いところ(無意識とか深層意識といってもよいでしょう)との対話の糸口として、心理療法において他には代えがたい重要な意味があるとも考えています。可能な場合には、当オフィスでは夢をとくに大切なものとして扱っていきます。
<文献>
井上嘉孝編(2023).図解でわかる臨床心理学.中央法規出版.
成田善宏(1993).精神療法の経験.金剛出版.
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