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執筆者の写真嘉孝 井上

比叡山

またまた大学院の研究会でフィールドワークに行ってきました。今回は2023年8月下旬、比叡山延暦寺を巡る日帰りの旅です。東塔、西塔、横川エリアを少し駆け足で、大学院生さんたちと一日で回ってきました。


東塔エリアは観光客が最も多く、阿弥陀堂、東塔、戒壇院、大講堂、大黒堂、根本中堂などを参拝することができます。また国宝殿では、重要文化財の仏像群や国宝となっている最澄筆の書などが展示されています。

観光客が多く、にぎやかな東塔エリアですが、すっと空気の密度が変わるように感じられる根本中堂のなかでは、西暦788年(延暦7年)の建立以来と伝わる「不滅の法灯」が灯し続けられています。お堂自体は、昭和の大改築以来60年ぶりという大改修工事が10年以上に渡って続けられていました。比叡山一帯を巡る妖怪伝承とのコラボ企画によるスタンプラリーも開催されており、ARやVR技術を活用した寺院の紹介もありました。歴史的・伝統的にずっと変わらず続けられている営みと、常に新しく生まれ変わろうとする営みが融合している姿が印象的です。


奥まった西塔エリアには、聖徳太子に縁のある椿堂、にない堂、釈迦堂、浄土院(伝教大師御廟)などがあります。このあたりから東塔エリアでは見られなかった巨樹が散見されるようになりました。そういえば比叡山は千年以上の歴史ある霊山であるにも関わらず、高野山と違って巨樹がそれほど多く見られません。おそらく1571(元亀2)年、織田信長による焼き討ちによる影響でしょうか。新生する樹々がこの山の歴史的な傷とそこから回復してきたプロセスを暗示しているようにも思えます。


さらに進んだ横川エリアになると観光客がだいぶ減って、トレイルランナーたちが山道を走っていきます。自然な雰囲気が残された静かな空間では、道場から修行者たちの声明が聞こえてきます。ここには横川中堂のほか、「おみくじ発祥の地」として知られる元三大師堂などがありますが、ここのおみくじは他の寺社仏閣で引けるような気軽なものではなく、事前予約による相談制となっています。古代の神託の名残のような、あるいは現代のカウンセリングの原型のようなそのあり方はたいへん興味深く思われました。また、有名な魔除けのお札である「角大師」は鬼の姿を模しています。鬼を以って魔を除ける。こうした思考も「類は類を癒すsimilia similibus curantur」という古代的な癒しのメカニズムの名残が感じられるものでした。


比叡山は高野山と異なり、もともとは墓所が設けられなかったようですが、千年以上に及ぶ修行の場として当地がしっかりと守られてきたことがわかります。清々しい空気のなか、日常の現実を別の次元から振り返る機会となりました。



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