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古代の音

  • 執筆者の写真: 嘉孝 井上
    嘉孝 井上
  • 11月16日
  • 読了時間: 3分

洛南心理オフィスでは、いくつかの絵を飾っています。これは、そのうちのひとつ。

クレーによって描かれた「Ancient Sound, Abstract on Black」(古代の音、黒に抽象)です。

(写真はパブリックドメインの画像より)


Ancient Sound, Abstract on Black (Paul Klee,1925年)
Ancient Sound, Abstract on Black (Paul Klee,1925年)

パウル・クレー Paul Klee (1879 - 1940) は、ドイツ人音楽教師の父親とスイス人歌手の母親のもと、1876年にスイスで生まれました。クレー自身も親譲りの豊かな音楽の才能をもち、幼少期から音楽家になることを目指していたようで、とくにヴァイオリンの腕は一流だったそうですが、10代になると親とは別の道を自ら選び、視覚芸術の世界に進むことを決意しました。とはいえ、音楽的な関心はその後も続いたようです。


もともとデッサンには優れていたクレーですが、色彩感覚については困難を感じていたようで、初期の作品は暗く、グロテスクな作品も目立ちます。しかし、長い格闘を経て、ついに自らのスタイルを見い出していった彼は、次のように語っています。


「色彩は私を支配した。もはやそれを追いかける必要はない。色彩は永遠に私を捉えているのを知っている…色彩と私は一つだ。私は画家だ。」

"Color has taken possession of me; no longer do I have to chase after it, I know that it has hold of me forever... Color and I are one. I am a painter."


こうしてクレーは、自らの立脚点を見出していきました。そこで描かれた絵画のひとつが

この「Ancient Sound」です。


暗いなかに、様々な色彩が明滅するように浮かび上がっているような、この絵を初めて見たとき、たいへん感銘を受けました。

そして、見れば見るほど、様々な気づきや思いが浮かんできます。

黒のなかには豊かな色彩が潜んでいるということ、色や枠が同じようであってもどれひとつとして全く同じではないし、各々に刻み込まれた肌理はそれぞれに全く異なっているということ。そして、かたちのないものや目に見えないものが、深いところから自ら浮かび上がってくるような、それらが見るものによって拾い上げられているようなこと。深い音が聞こえてきそうなこと。


私たちの声や言葉は、音でもあります。あるいは、声や言葉にさえならない潜在的な「音」があるかもしれません。そして「古代の音」という題名にも示されている通り、私たち個人が生きているところの下には、古くからの音が響いているのかもしれません。古くから響いている音が今という時間と場所において明滅して、それらがひとつになって、今を作っているのかもしれません。


これは、決して明るい絵ではありません。しかし、私たちのこころの非常に深いところと響き合うように思えます。とりわけ、カウンセリングの場にあるものとして、とてもふさわしいように思えます。


参照:

Partsch, S. (2015).Klee (Basic Art Series 2.0).TASCHEN.


 
 
 

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